火の取扱いについて

(日本ジャグリング協会)

ジャグリングが少しずつ世間になじむにつれ、私たちのサークルでも、出演依頼が 増えてきました。 野外でのステージがあると、最後にトーチをやるととても盛り上がります。 人間がはるか昔から火と共に生きて来た記憶が刺激されるのでしょうか。 しかし、料理以外で火を取り扱う機会がほとんどない今日では、火について何も知らないまま大人になってしまう人が増えています。

あなたはトーチなどの火を使う道具の燃料について、しっかりとした知識をもって いるでしょうか。 もし何かに引火したときの、適切な消火の仕方をご存じでしょうか。 火傷をしたらまず何をすべきか。

火を扱うときには、自分や周囲にいる人を守るために知っていなければならないことがあ ります。トーチにガソリンを使い、知らなかったではすまされません。

★ガソリンは、非常に引火しやすいので絶対に使わない。 ★周囲に燃えやすいものがないか、いつも十分確認する。 ★火噴きは、やらない。 ★軽い外傷としてやけどをしたら、まず流水で20~30分 よく冷やす。 これは最低限の常識です。

あなたはこの際、火についてより詳しく知っておいてください。 下記の文は、JugPul8号から許可を得、転載させて頂きました。 (筆者、西川正樹さんによる加筆修正がされています。)


火の用心!

この数年のジャグリング人口の増加には目をみはるものがあり喜ばしいことです。 ある程度ジャグリングがうまくなってきて人にも見せるようになってくると、 火のついたトーチを使ってもっと観客にアピールしたい、拍手をもらいたい、 という気持ちが出てくると思います。 実際、トーチは観客のうけも良いし、やっていても楽しいものです。 でも、ちょっと待ってください。安全面は大丈夫ですか?

ジャグリング人口が増え、それにしたがって火を使う人が増えれば、 事故が起きる可能性も大きくなります。 もし、日本のどこかで誰かが事故を起こし、たまたま運悪く新聞沙汰にでもなれば、 事故を起こした本人が困るだけでなく、ジャグリングや大道芸の世界すべてに マイナスの影響が及びます。 そのようなことを防ぐためには、皆が安全のための知識を持ち、 十分な準備と配慮をすることが大事です。 その助けになればと思い、火を使う上での注意をまとめてみました。 火を使った経験のある人もない人も、ちょっと目を通してみてください。

燃料について

(強調)ガソリンは絶対に避けましょう。(強調終わり) ガソリンは、原油を蒸留して低い温度で蒸発する成分を集めたものです。 ガソリンは常温でも常に蒸発を続けており、ガソリンの周囲にはガソリンの蒸気が 空気と混ざり合って漂っています。 そこへ火のついたものを近づければ、あっという間に引火して爆発的に燃えます (悲惨な事故、事件がいくつか起きているのは記憶に新しいところです)。 ガソリンをトーチの燃料として用いるのは絶対にやめましょう。 同様に揮発油である塗装用シンナー、トルエン、ベンジンなども使ってはいけません (揮発性が高いだけでなく、有毒です)。 人の言葉遣いというものはけっこういい加減なもので、 燃料なら何でもガソリンと呼んでしまう傾向があり、新聞や雑誌にもその傾向がありま す。 そのような情報を鵜呑みにしてガソリンを使わないようにしてください。

ジャグリングのトーチの燃料としては、家庭で石油ストーブなどに使う灯油を使うのが一 般的です。 灯油はガソリンより蒸発しにくく、引火もしにくく、ずっと安全です (もちろん、十分な注意が必要であることは言うまでもありません)。 「灯油は黒い煙が出て汚れる」という理由で、 登山用携帯コンロの燃料(通称:白ガス、ホワイトガソリン)を使う人もいるようです。 しかし、携帯コンロ用の燃料の主成分はナフサであり、 ガソリンほどではないとはいえ灯油よりもずっと蒸発しやすく引火もしやすいので、 より注意が必要です。 ちなみに、灯油の呼び名は同じ英語でもイギリスとアメリカで違い、 イギリスではパラフィン paraffin、アメリカではケロシン kerosine, kerosene なの で、 ジャグラー同士の会話でも話が混乱することがよくあります。 同様にガソリンはイギリスでは主に petrol, アメリカでは gasoline です。

燃料を入れる容器は、きちんと口が閉まる金属容器または耐油性のプラスチック容器で、 底が広く安定していて倒れにくいものを使いましょう。 ガラス製の容器は割れる危険があるので避けなければいけません。

燃料の容器には、内容物が他の人にも分かるように「灯油」などとはっきり書いておきま しょう。 間違って飲んでしまったり、不用意に捨ててしまったり、水だと思って火に注いだり することを避けるためです。

燃料容器を置き去りにしてはいけません。以前、文化祭ステージの終了後に、 大型ポリタンク入りの灯油が放置されているのを見たことがあります。 悪意のある人が容器を蹴り倒して火をつけるのには3秒もかかりません。注意しましょ う。

燃料は必要最小限だけ持ち歩くようにします。 燃料を飛行機などの交通機関へ持ちこむのは、危険なうえに法律違反なのでやめましょ う。

道具について

使う前に、トーチなどの道具が壊れていないか、ネジが緩んでいないかをよく確かめま しょう。 不具合があると、火のついたトーチの頭がすっぽ抜けて飛んでいくおそれがあります。 観客の中へ飛びこんだら大変です。

ファイヤーディアボロは、道具の性質上、落としたときに転がって行く距離が長いです。 また、ファイヤーポイ、ファイヤーメテオ、スウィンギングトーチなどは、 万一壊れた場合、遠心力の関係でかなりの距離を飛ぶ可能性があります。 これらの道具は、使う場所をよく考えましょう。

さらに、ファイヤーポイ、ファイヤーメテオは、失敗すると身体に巻き付き、 すぐに外せなくて重い火傷をする可能性がありますので、 十分上達してからチャレンジしましょう。

消火のための備え

まず、一人で火を使うのは避けましょう。 自分の服に火が燃え移ってもすぐ気付かないことがありますし、気が付いたとしても、 簡単には消せません。必ず複数人でやること。 小さな火は、厚くて大きなタオルや毛布で覆えば消すことができますし、 不燃性の消火布も防災用品として市販されています。必ず用意しましょう。 それとは別に、こぼれた燃料を拭くための小さなタオルも必要です。

大きな火を消すために消火器を用意します。 大げさに思うかもしれませんが、万一の場合を考えれば必要です。 また、使う必要がないとしても、消火器が用意してあれば、 周囲との無用のトラブルを避ける事ができるかも知れません。 小さな火に対して消火器を安易に使うと、薬剤で周囲が汚れますし、 薬剤を誤って吸い込む危険もあります。 しかし、火が大きくなった場合など、使うべきときはためらわずに使うべきです。

演じるときの注意

自分の服装に気をつけましょう。 化学繊維は燃えやすい上、溶けて肌に張り付いたまま燃え続けるので、 ひどい火傷を負う危険があります。特にアクリル毛糸のセーターなどは簡単に火が点きま す。 また、天然繊維でも綿などは、けばだっていると容易に火が付き、そのまま燃え続けま す。 これは表面の細かい繊維の周りに空気が豊富にあって燃えやすくなっているためで、 実際の着衣引火事故の主原因となっています。

観客の服装にも注意を払う必要があります。 燃えやすい服を着ている人を最前列に座らせたり、ボランティアに選んだりするのは 避けるべきです。

燃料をトーチの灯心に含ませたら、燃料容器のふたをしっかり閉じ、 十分に離れた、誰かにつまずかれる恐れのない場所へ容器を移します。 トーチの灯心に余計な燃料が含まれていると、 ジャグリングをしたときの遠心力で周辺に飛び散り、燃料が本人や周辺に降りかかりま す。 火を点ける前に、トーチの灯心を下に向け、よく振って余分な燃料を振り落とします。 トーチの灯心部分を燃料にどっぷりと浸してしまい、 その後で必死になって余分な燃料を振り落としている人をよく見かけますが、 これは良くありません。 たくさんの燃料が地面に振りまかれて、通行人の投げ煙草などで引火する危険もあります し、 環境にも良くありません。 ショーの場合には、それまでのショーの流れが途切れて観客の気がそれてしまいますし、 何度も何度も燃料を振り落とすのは観客から見るとけっこう見苦しい動作です。 さらに、燃料で舞台が滑りやすくなって、後の人にも迷惑です。

Charlie Dancey は、燃料を計量カップのような容器に移して灯心の上から少しずつ注ぎ かけ、 あまった最初の一滴が垂れるところで止める方法を著書の中で勧めています。 下には、垂れた燃料を受ける別の容器を置きます。 慣れれば必要な燃料の量が分かり、手早くできるようになるはずです。

燃えているトーチや消えたばかりの熱いトーチに燃料を継ぎ足すのは危険です。 灯油より引火性の高い燃料での危険は言うまでもありませんが、引火しにくい灯油でも、 熱せられれば蒸発が早まって引火しやすくなります。 必ず火を消し、しばらく冷ましてから燃料を補給してください。

火吹きはやめよう

トーチ・ジャグリングの延長で、火を吹く芸をやりたくなる人も思いますが、 火吹きはするべきではありません。 理由は以下の通りです。

まず、誰でも考える通り、火傷の危険があります。 火を吹いた瞬間に風向きが変われば、火の玉が自分に向かってきて確実に火傷をします。 ましてや、口の中に残っている燃料に引火したらただではすみません。 万一、肺の中まで焼ければ、最悪、死にます。

次に燃料の毒性の問題があります。 燃料には多かれ少なかれ毒性があり、口の粘膜から吸収されたり、 誤って飲みこんだりすれば体に害があります。 つまり、中毒になったり、脳神経系や肝臓に悪影響が出たり、癌を誘発したりします。 燃料には、燃えやすくしたり、煙などを少なくしたりするために、 いろいろな化学物質が混ぜられており、口に入れてもまったく無害で安全な燃料などとい うものは、 実際的には存在しません。そして、毒性が強い燃料もいろいろあります。

さらに、燃料を口に含んでいるときにむせたり、 誤って飲みこんだ燃料を吐き出そうとしたりして燃料が肺に入ると、 化学性肺炎を起こして呼吸困難になって死亡したり、 死なないまでも長期間入院する事になります。

これらの危険を考えると、面白半分で火を吹いたり、 安易にうけを狙って火を吹いたりするべきではありません。 経験を積んだ人に教われば、ある程度は危険を減らせますが、 危険をゼロにすることはできませんし、 教えてくれることがすべて正しいという保証もありません。

その他いろいろ

まず、クラブがろくにできないうちにトーチに手を出すのは無茶です。 基礎を固めましょう。 また、トーチの経験がないのに、いきなり暗いところでやるのも無謀です。 まず、昼間に練習し、徐々に夕闇に慣れていきましょう。 クラブで確実にできない技をトーチで演じる必要はありません。 見る立場からすると、同じ失敗でもクラブよりトーチの方が 「あ、失敗した!」という印象が強くなります。 トーチを使っていることで、すでに十分な効果があるのですから、 そこでわざわざ難しい事をして失敗することもないでしょう。

時、場所、状況をよく考えましょう。 燃えやすいものがあるところでトーチをジャグリングするのは論外として、 他にもいくらでも制約となりうる条件はあります。 これはもう、常識と想像力を働かせてくださいとしかいいようがありません。 たとえば、ある場所で誰かがトーチの火でなにかを燃やしてしまったり、 火を使ったこと自体が問題になったりしたために、 その場所でジャグリングやその他のパフォーマンスができなくなれば、 その人だけの問題ではありません。

火を扱い慣れてくると、どのぐらいまでなら安全かという感覚が掴めてくると思います。 その感覚は大事なものですが、だからといってそれに慣れてしまって鈍感にならないでく ださい。 あなた自身が安全だと思っていても、あなた以外の一般の人にとっては、 「火は危険なもの」なのです。 たとえば、燃えているトーチを落したジャグラーが 「しばらくならそこに落ちていても大丈夫」と判断していても、 周りに居る人(特に、その場所に責任のある人)の方は血相が変わっている、 ということはありえますし、そういう状況を実際に見たこともあります。 この場合、「普通の人の感覚」の方が正しいのです。

実際には危険がなかったとしても、トラブルが起きれば損をするのはジャグラーの方で す。 また、ジャグラーが安全だと思っていても、 自分の家や店のすぐ前や自分の子供の目の前で火が燃えているトーチをぞんざいに扱われ て、 いい気持ちがする人はいないでしょう。 「普通の人の感覚」を忘れないでください。

最後に、当たり前のことですが、酒を飲んで酔っているときには絶対に火を扱わないよう に! 普段から安全に気を付けている人でも、酔って理性が曇ると、非常に危険です。 また、周囲の人も止めるようにしてください。

終わりに

この文章は、火の使用を勧めるものではなく、 「火を使って明らかに危険な事はしないで欲しい」という動機で書かれたものです。 一方的に「火を使うな」と言っても、火を使いたい人を止められるわけがありませんし、 そこまで言うつもりもありません。 それなら、情報がないまま見様見真似で火を使って問題を起こす人が出てくるよりも、 「やってはいけないこと」を広く知らせ、問題の発生を防ぐ方が有益だ、 という考えに基づいています。

したがって、この文章の内容がもとで、あなたが怪我をしたり、 他の人に損害を与えたりしても、筆者は一切責任を負いかねます。 また、この記事に書かれていることがすべて正しいとは保証しません。

火を使ったジャグリングをするならば、なるべく多くの経験者から話を聞き、 十分な情報を集めた上で、自分の責任で行なってください。 ここに書いた必要最小限の安全知識以外にも、 火を使ったジャグリングに関するコツやノウハウはいろいろあります。

参考文献

この記事を書くにあたり、ジャグラーや他の人々によって書かれたいろいろな文献、 インターネットのrec.jugglingで過去に繰り返されてきた議論を参考にし、 間違いがないであろうと思われる、安全サイドに振った最大公約数的内容を取り上げまし た。 参考にした文献は、以下の通りです。

また、日本のジャグリングショップでも、火に関する注意を呼びかけています。

ジャグパル JugPal 21号には、燃料の霧を吸い込んで化学性肺炎になり、 生死の境をさまよったアメリカ人パフォーマー、 ペレさんの手記を翻訳して転載してありますので、そちらも参照してください。 http://www.chansuke.net/jugpal/index.html


一番危険な火噴きですが、遊び半分で物事をやると必ずしっぺ返しがきます。プロはいつも命がけです。プロはそのことに自分の生活のすべてと命を賭けている人です。あなたにその覚悟があるでしょうか。あなたが火噴きをしようとするとき、そのことを思い出してください。あなたを止められるのは、あなた自身です。